“one or more”は、文脈によって訳し方を変えたほうが良い表現です。経験的に最も多いのは下記(1)ですが、その他のパターンもあります。
(1)「1つまたは複数の」か「一つまたは複数の」
“one or more”に続く名詞が一つ、二つで数えることができ、かつ小数点以下の表示が不要の場合に使用可能です。
例えば、”one or more substituents”は、「一つまたは複数の置換基」と訳すことができます。
(2)「一つまたはそれより多くの」
moreをより英語に忠実に訳出した形です。「一つの~」と「それより多くの~」を「または」でつないだ記載です。
(3)「1または複数の」
「1」の後に助数詞がないパターンであり、かつ小数点以下の表示が不要の場合に使用可能です。「1つの~」や「一つの~」と表現すると違和感がある場合に使用したりします。
(4)「1種または複数種の」
“one or more”に対して「~種」を付けて訳出してよいのかを疑問に思われるかもしれませんが、日本語の表現上「種」を付けないと誤解を招く場合は付けるべきです。
例えば、組成物を構成する賦形剤の説明で”one or more excipient”を訳す場合は、「一つまたは複数の賦形剤」というよりは「1種または複数種の賦形剤」という方が好ましく、しっくりもきます。
別の例では、コポリマー(共重合体)に含まれるモノマーについて説明する場合があります。コポリマーは、モノマーが複数個結合して構成されている上、モノマーも2種以上にわたります。ホモポリマーであれば、1種類のモノマーが複数個結合しているので特に問題になりませんが、コポリマーの場合は、複数種のモノマーが複数個結合しているので「種」を付けるほうが好ましいです。
“A polymer comprises one or more monomers”という英文については、以下のように訳すのがお勧めです。
推奨:「ポリマーは1種または複数種のモノマーを含む。」
誤 :「ポリマーは一つまたは複数のモノマーを含む。」
(5)「1または1超の」および「1またはそれよりも高い」
“one or more”に続く名詞が、数値で表されるものであれば好ましい表現です。
例えば、”one or more refractive index”であれば、「1または1超の屈折率」や「1またはそれよりも高い屈折率」と訳すことができます。
(選外1)「1またはそれ超の」
この表現は、特許請求の範囲に記載されていた場合、範囲が不明確であると拒絶理由を受ける可能性が高いので、ご注意ください。
(選外2)「1種または複数の」
稀に、「1種または複数種の」と訳出したかったのか分かりませんが、「1種または複数の」と訳されているのを見かけます。種類と個数ではカテゴリーが異なるので、「1種または複数の賦形剤」と記載すると、極端な話、1種類の賦形剤が存在しているか、1種類の賦形剤が分子レベルで複数個存在することを記載しているだけになります。そうなると、この記載は、複数種存在することを否定してはいませんが、明示的に記載していないことになります。
以上、どなたかのお役に立てれば幸甚です。