今回の本題であり、結論
「溶解する(した)。」は、主語が溶媒(又はそれに類するもの)のときに使用する。
「溶解させる(させた)。」は、行動した主体が、溶質を溶媒に溶かす(溶かした)ときに使用する。
化学系明細書の実施例では、「ある物質を溶媒中に溶かす。」という意味の文章がよく出てきます。例えば、実施例中に
Sodium chloride was dissolved in water.
という一文があったとします。実施例は、能動態で和訳するのが慣例ですので、一例としては、
「塩化ナトリウムを水に溶解させた。」
となります。
ここで、一点注意して頂きたいのは、
「塩化ナトリウムを水に溶解した。」
とはならないことです。
専門家からすると、「溶解する(した)。」という表現は、
溶媒(例えば、水)が、溶質(例えば、塩化ナトリウム)を“溶解する。”という性質を表現しているか、
ある作業の結果、溶媒が溶質を“溶解した。”ことを表現している
と判断します。
翻って「塩化ナトリウムを水に溶解した。」の一文を見てみると、塩化ナトリウムを“溶解した。”と記載されているにも拘らず、水が主語でないので、違和感があります。
「水が塩化ナトリウムを溶解した。」という表現であれば、問題ありません。もちろん、そのときの英文は、
Water dissolved sodium chloride.
であるべきです。
“溶解”に関してdissolveが使用される表現は、2パターンあります。
1つ目は、”Sodium chloride was dissolved in water.” ≒ “I dissolved sodium chloride in water.” のように、人間(または装置)が、「塩化ナトリウムを水に溶解させた。」ことを表現するときに使用されます。
2つ目は、”Water dissolves sodium chloride.” のように、「水が塩化ナトリウムを溶解する。」、すなわち溶媒(ここでは水)が溶質(ここでは塩化ナトリウム)を溶解することを表現するときに使用されます。
そのため、上記の「塩化ナトリウムを水に溶解した。」の一文は、2つのパターンのいずれにも当てはまらないため、違和感があります。
この違和感は、もしかすると世代間での表現の差かもしれませんが、私としてはやはり違和感を拭い切れません。
以上、どなたかのお役に立てれば幸甚です。