翻訳

“acetate”は「酢酸エステル」か「酢酸塩」か?

本記事の主題と結論

エステル化合物や有機酸塩を表す用語に”-ate”で終わる単語があります。例えば、酢酸エステルや酢酸塩を表す”acetate”、クエン酸エステルやクエン酸塩を表す”citrate”が挙げられます。

では、明細書中の”-ate”で終わる物質は、どう和訳するのがよいでしょうか?
結論としては、下記のようにその使われ方や文脈から判断することが必要です。

(1)”-ate ion”のようにイオンである場合、例えば「〇〇酸イオン」(例:酢酸イオン)
(2)”-ate”が塩である場合、例えば「〇〇酸塩」(例:酢酸塩)
(3)”-ate”がエステルである場合、例えば「〇〇酸△△」(例:酢酸エチルなど)
(4)”-ate”が何か不明である場合、例えば、”acetate”であれば「アセタート」または「アセテート」

イオンかエステルか塩か?

(1)イオンであることが明らかな場合

“acetate ion”や”acetate anion”といった組み合わせで使用され、イオンであることが明らかな場合は、「酢酸イオン」や「酢酸アニオン」という訳が適切です。

(2)塩であることが明らかな場合

“sodium acetate”や”ammonium acetate”のようにナトリウムなどの金属やアンモニウムイオンとの組合せで使用される場合は、塩である可能性が高いです。

この場合、”sodium acetate”=「酢酸ナトリウム」、”ammonium acetate”=「酢酸アンモニウム」という訳が適切です。

(3)エステルであることが明らかな場合

“ethyl acetate”や”2-propyl acetate”のようにエチル基や2ープロピル基などの炭化水素基との組合せで使用される場合は、エステルである可能性が高いです。

この場合、”ethyl acetate”や”=「酢酸エチル」、”2-propyl acetate”=「酢酸2-プロピル」という訳が適切です。

(4)イオンか塩かエステルかの判断がつかない場合

イオンか塩かエステルかが不明な場合、カタカナ語訳が適切となります。例えば、”alginate”が単独で記載されており、かつ文脈から何を指しているか不明な場合、「アルギナート」または「アルギネート」が適切な訳語となります。 

用語の範囲について

英文和訳で特に注意したいのは、用語本来の範囲を不用意に狭めないことです。

例えば、”alginate”が単独で記載されていて、かつ文脈から何を指しているか不明な場合、「アルギン酸塩」または「アルギン酸エステル」のいずれかで訳出してしまうと、もう一方の範囲について明細書中の根拠が無くなってしまいます。こういった事態を避けるためにカタカナ語訳を採用することが適切となります。

日本の医薬品添加物規格(2018)を見ても、下記例のように有機酸ならびにその塩やエステルが種々使用されています。したがって、不用意に”-ate”は「エステル」または「塩」のいずれかと決め付けるのは危険ですので、ご注意ください。

(有機酸)アルギン酸 = alginic acid
(塩)  アルギン酸ナトリウム = sodium alginate

(有機酸)オレイン酸 = oleic acid
(エステル)オレイン酸エチル = ethyl oleate
(塩)オレイン酸ナトリウム = sodium oleate

(エステル)クエン酸トリエチル = triethyl citrate
(塩)クエン酸二ナトリウム水和物 = disodium citrate, hydrate

まとめ

“-ate”で終わる物質名は、下記のように使われ方や文脈から判断しての場合分けが必要です。

(1)”-ate ion”のようにイオンである場合、例えば「〇〇酸イオン」(例:酢酸イオン)
(2)”-ate”が塩である場合、例えば「〇〇酸塩」(例:酢酸塩)
(3)”-ate”がエステルである場合、例えば「〇〇酸エステル」(例:酢酸エチルなど)
(4)”-ate”が何か不明である場合、例えば、”acetate”であれば「アセタート」または「アセテート」

以上、どなたかのお役に立てれば幸甚です。

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