英文明細書内に”Cancer”と”Carcinoma”があった場合、どのように和訳しますか? 訳し分けをされますか?
結論としては”Cancer”は「がん」、”Carcinoma”は「癌」または「癌腫」と訳し分けることをお勧めします。
理由:
ひらがなの「がん」と漢字の「癌」は、専門的(医学的)には異なる意味を持っており、さらに、Carcinoma(癌腫)は、Sarcoma(肉腫)と対比で記述されることが多いためです。なお、カタカナの「ガン」は、一般的に「がん」と同じ意味で用いられていますが、専門用語としては用いられません。
がんと癌の違いについて
がんは、それが発生した細胞の種類によって、癌腫や肉腫、血液がんなどの種類に分類されます(表1)。包含関係は、
[がん]≧[固形がん 及び 血液がん]
[固形がん] ≧[癌腫 及び 肉腫]
と表すことができます。
表1 がん(悪性腫瘍)の分類
固形/血液 | 分類 | 発生する細胞 | 例 |
固形がん (Solid cancer) | 癌腫 (Carcinoma) | 上皮細胞(消化管や気道などの内側や体の表面、臓器などをおおう細胞) | 肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、子宮がん、卵巣がん、頭頸部のがんなど |
固形がん (Solid cancer) | 肉腫 (Sarcoma) | 非上皮性細胞(骨や筋肉などを作る細胞) | 骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫など |
血液がん (hematologic cancer) | - | 血球(白血球などの、血管や骨髄、リンパ節の中にある細胞) | 白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫など |
(参照元)がんという病気について
https://ganjoho.jp/public/knowledge/basic/index.html
「悪性腫瘍」「がん」「癌」は厳密には違う?違いを解説
https://minpapi.jp/malignant-tumor-cancer/
上記の専門的な違いを前提とすると、血液がんは「血液がん」としか表せず、「血液癌」は正確でない表記となります。
実際の明細書翻訳では、Carcinomaは、Sarcoma(肉腫)との対比や、単独で表現されているときは、「癌腫」と訳出してよいのですが、患部と組み合わせた表現である場合は、「〇〇癌」の方が適切です。例えば、Gastric carcinomaは、胃癌であり、胃癌腫という訳には違和感があります。
Cancerは、「がん」でよく、Gastric cancerであっても胃がんです。
英文明細書の作成者が”cancer”と”carcinoma”を厳密に区別して書いているかを知る由もありませんが、特許翻訳ではその性質上、明細書に記載されていることをベースに翻訳するしかありません。
以上、どなたかのお役に立てれば幸甚です。