Fusionは、原子核物理学の分野では融合と和訳されますが、有機化学分野で次の文章は、どう訳すべきでしょうか?
A benzene ring is fused to an imidazole ring.
推奨訳は、「ベンゼン環はイミダゾール環と縮合している。」です。
ここで注目して頂きたいのは、fusedの次の前置詞は “to” ですが、「~と縮合している。」と訳出している点です。理由は、当業者の表現として「~と縮合」というが一般的だからです。
前置詞に to が使われているので、うっかりすると「~に縮合している。」と訳しがちですが、「~と縮合」の方が専門的な表現として適切です。国際特許分類のC07D 209/02などでも、「1個の炭素環と縮合しているもの」と表現されています。
縮合環を表現するときにfusedと同様に使用される単語に “condense” があります。明細書内でfuseとcondense(=縮合する)とを訳し分けるために、fuseが「融合」と訳出されているのを見かけますが、和文として馴染みませんし、表現すべき状態を正しく表していません。
また、「ベンゼン環はイミダゾール環と縮合している。」を英訳するとき、
A benzene ring is condensed to an imidazole ring.
と表現することも可能です。
一方で”condense”は、水酸基(OH)を有する物質Aと、物質B中の水素(H)とが脱水縮合して結合する反応にも、「縮合」の意味で使用される場合があります。この場合、例えば、
A is condensed with B.
と表現され、「AがBと縮合する。」という意味です。ただし、この脱水縮合を表現するときに、”fused”へ置き換えて使用できない点にはご注意ください。
以上、どなたかのお役に立てれば幸甚です。